『田園の詩』NO.94「待たされる真打ち登場」(1999.3.2)


 ラジオで、ウグイスの初音を聞いたという話題が各地から寄せられています。「こちら
はもうずっと前から鳴いているヨ」、といつもならいうところですが、2月も半ばを過ぎた
のに今年はまだです。

 どうしてウグイスが鳴かないのか。節分寒波で出端をくじかれたのでしょうか。確かに、
ちょど節分の当日、大雪になりました。東北・北海道では今年は大変な大雪のようで、
九州で大雪といってもそれは≪スズメの涙≫ほどのものでしょう。それでも、3年前に
買ったタイヤチェーンを初めて使いました。

 しかし、春の到来が例年より特に遅くなっている訳でもありません。梅の花もすでに満
開を迎えようとしています。条件は充分に整ってきているのにウグイスはまだなのです。

 よく、「これが済まぬと春は来ない」とか、「春を呼ぶ行事」というものが、各地にあり
ます。私も、筆作りの修業時代は奈良市に、独立してからは京都市に住んでいました。
関西では、春を呼ぶ行事といえば奈良の東大寺・二月堂の≪お水取り≫です。

 ここ国東半島にも春を呼ぶ行事は沢山あります。代表的なものが≪修正鬼会≫です。鬼が
松明を振りかざしながら夜遅くまで舞い踊る勇壮なお祭りで、昔は多くの寺院で行われてい
ましたが、現在では3ヶ寺だけになってしまいました。


     
     豊後高田市の天念寺の修正鬼会です。お堂の中で、2匹の鬼と、
     松明を持った男衆が暴れまくります。    
          (朝日新聞社刊『六郷満山 国東』より)
  

 これが旧1月6日、7日にあります。新暦では、毎年2月の半ば頃に当たります。です
から、≪鬼会≫が済むと春が来るといわれています。

 ただ、≪鬼会≫そのものが広く知れ渡っていないので、≪お水取り≫のように誰もが春の
到来を感じる行事には成り得ていません。誰もが納得する春を告げる真打ちといえば、
やはりウグイスになるのです。

 ところで、毎年、何故か女房の方が私より先にウグイスの初音を聞き付けます。寒がり
屋の女房は、冬の終わりを告げるウグイスと、夏の終わりを告げる法師ゼミには敏感なの
です。

 今年こそ私が先に…と、真剣に耳をそばだてている今日この頃です。
                             (住職・筆工)

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